かわさき起業家オーディションビジネス・アイデア シーズ市場
第57回最終選考会(2009年2月7日開催)
ENTRY No.6

ビジネスアイディアのテーマ
高品位PETプローブ製造用普及型総合システムの市場化・事業化 ~重粒子線医療の普及のために~

ビジネスアイデアの提案者
株式会社粒子線医療支援機構
平尾 泰男(ヒラオヤスオ)

(発表者:山下正幸)
【川崎市幸区】

かわさき起業家大賞
日本起業家協会賞
りそな神奈川応援賞

山下正幸さん

ビジネスアイディアの概要について
重粒子線医療の普及のために

●本件は、独立行政法人放射線医学総合研究所(以下、放医研)ですでに開発され長年にわたって実現されている、多種類のPET分子プローブ(各種の疾患の原因となる遺伝子・タンパク質の活性制御を担う様々な化合物やその化合物に結合する標識化合物)の合成、品質検査、調剤処理、分注処理までの完全自動トータルシステム・装置の普及型製造に向けての研究開発、製造、販売、サポートサービス事業です。健康で安心して暮らせる地域社会を実現するために、がんやアルツハイマー病、脳梗塞など虚血性神経障害、炎症・感染症、疲労やストレス等の原因を早期に診断・発見し、また、治療効果の評価などを行う、いわゆるPET(Positron Emission Tomography)等を活用した分子イメージング分野の事業化・商用化の一環です。
●放医研にのみ存在する現行システムは、大型・高額なシステム機器で構成され、医学だけでなくあらゆる研究用対応のため、多くの機能が具備されていますが、本件により地域の中核医療の現場でも安全・安定的に使用できるよう、小型化・低価格化・使い易さを追求し、医療用に特化したプロトタイプをまず設計・製作します。プロトタイプ完成は来年度後半を予定し、設置場所及び実証試行は、将来のアジア市場への展開を視野に、琉球大学や国立病院機構沖縄病院等と共同にて沖縄県で実施致します。
●本件は同分野において産官学連携による事業化では世界初の研究開発プロジェクトであり、非侵襲性で患者に優しい診断を高品質で安全に実施するため、地域医療における診断技術の格段の向上が期待できます。また、患者だけではなく、PETを運営する医療機関等にとっても大きな意義があります。それは、PETプローブの半減期は極めて短く、透過性の強い放射線(511keV)を放出するため、製造や輸送が困難で、ほとんどの場合、PETを運営する病院などの利用施設で製造・品質管理まで行わなければならないからです。GMP(Good Manufacturing Practice)を考慮した安全なPETプローブが作業者の放射線被爆無しに完全自動で製造することも可能となるため、コストと安全面でPETの利用が飛躍的に増大することが期待されます。
●本件は、1)予防・診断・治療・予後ケアなど、既設病院やPET施設等の医療機能の強化、医業収益の向上、2)高比放射能合成技術の地域社会への展開、3)早期診断・予防医療システム、メディカルツーリズムなど新産業や雇用の創出、につながり、地域医療水準の飛躍的向上に資することが期待されます。また、治療効果が高く、副作用もなく、切らないため患者への負担も少ない「重粒子線によるがん治療」を今後一層普及させるために必須な機器・システムです。


新規性・優位性について

●本件の研究開発は、世界トップレベルの放医研での核医学・分子イメージング技術をベースに、地域医療の質的向上を図ることを目的に市場化・社会化を目指した世界初のもので、プロジェクトマネージャー(PM)は、曽我文宣氏(当社取締役、元東京大学大学院教授、理学博士)が就任、分子イメージング分野では世界的な研究者鈴木和年氏(株式会社メディプローブ代表、放医研上席研究員、工学博士)をグループリーダー(GL)として共同研究体に迎え、2年間の研究開発後、早期の実用化を目指します。
●本件システムの優位性は、次の通りです。
1)多種多様なPETプローブ製造に対応できます(大半のPET施設ではFDG、フルオロ・デオキシ・グルコース、ぶどう糖代謝を測ることによって腫瘍の診断に用いる化合物だけ)。
2)GMP準拠の安全なPETプローブ製造が可能です(多数のPETプローブ製造を行う施設ではほとんど例がない)。
3)様々なPETプローブの自動合成だけでなく、分離精製、調剤、品質検査、分注処理までトータルとしてRI(放射線同位元素)に触れることなく自動処理を行うことのできるシステムは放医研の現行システムのみで、その普及型です。
4)放医研で開発され、今後も世界的な開発が見込まれるPETプローブが容易に利用可能です。
なお、本研究開発は、社会貢献度、技術水準の高さ、充実した研究開発体制、将来の事業化可能性が高く評価され、平成20年度経済産業省「地域イノベーション創出研究開発事業」として正式に採択されました。


市場について
  • 主なターゲット・市場の規模
    本件対象となる顧客は、サイクロトロン(放射線同位元素を製造する装置)付きPET施設を保有及び計画する地域医 療機関や研究機関です。現在、PET施設は、国内206施設、サイクロトロン保有133施設(平成20年12月現在)存在し、神奈川県内には5か所のサイクロトロン保有施設があります。がんや脳神経系、循環器系など高次機能が一層求められる医療機関への高い導入ニーズ・シーズもあり、既存施設だけでなく、今後新たに国内170拠点、さらに、アジア・中国への大きな市場も期待できます。海外市場は現在調査中ですが、国内市場規模は、導入可能性約300拠点の30%(=90施設)で、100億円程度を推定しています。ただし、上記数字は、現在研究開発中のPETプローブ製造機器・システムだけの想定市場であり、この機器導入により収益効果が期待される関連事業は含んでおりません。
  • 市場での競争力
    早期診断・早期治療が今後、強い社会ニーズとなっている中、全身検査や4~6mmまで診断可能なPETへのニーズは強くなります。
    ただし、PETプローブの半減期は極めて短く(10~110分)、透過性の強い放射線(511keV)を放出するため製造や輸送が困難で、ほとんどの場合、病院などの利用施設で製造・品質管理まで行わなければならないPET特有の構造的問題が存在する以上、安全・安価に高品質で実現する技術・サービスへのニーズも同時に顕在化していくのは必至です。本件のような性能を有する総合的な視点でのシステムは現存しない上、今後、既存のFDG専用PET施設が他施設との差別化を図り、低収益からの脱却、医療機能の強化のため、本件の積極的導入が大いに期待されます。一見ニッチではありますが、本件のようにシステム全体では大きな影響を及ぼす普及型総合機器・システムはまだ存在しない上、販売後のサポート体制や重粒子線医療まで組み込んだクリティカルパス(当社にて本件同様推進中)導入を考えると、実質的には市場独占的な位置を確保することが予想されます。ある意味、本件は、PC、Web社会のOS(オペレーティングシステム)的な役割を惹起させ、今後、市販の装置を製造・販売している大企業等とも連携を取りながら、医療機関向け営業強化・システム向上を果たしていきたいと考えています。

実現性について
  • 実施スケジュール
    ~2009年秋 プロトタイプの研究開発。(小型化・低価格化・使い易さを追求し、医療用に特化したプロトタイプを設計・製作)
    ~2009年度 本システムを想定した重粒子線がん治療(肺がん、口腔がん、大腸がんの肝転移)のクリティカルパスの研究開発。
    2009年冬 プロトタイプの実証試行、効果分析。
    2010年春~ システム及び装置等の一部機能から販売開始。
    2010年秋以降 販売開始。
  • 実施場所
    本社(かわさき新産業創造センター)がメイン。 沖縄(琉球大学、国立病院機構、当社沖縄R&Dセンター)、岐阜(当社岐阜R&Dセンター)がサポート機能。
  • 実施体制(従業員等)
    12名(本件研究体委託先含む)
  • ビジネス・パートナー
    高度医療を担当する医療機関(大学病院、がん拠点病院等)。
    製造・開発のための専門メーカー3社、システム開発会社4社等。
    プロトタイプ開発目処がつくまでに、大手商社・販社等と連携予定。
  • リスクとその管理
    研究開発の技術的リスクは少ないが、販売体制、技術サポートとサービスというマネジメントリスクをどのように克服していくかの課題があります。

このページの内容は、受賞者の文責による最終選考会プログラム(当日配布)の内容を転載したものです。
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