産学連携ニュースレター
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研究室探訪
産業界との連携を積極的に進めている研究者に焦点を当て、シリーズで紹介するコーナーです。今回は、慶応義塾大学、明治大学、で、先導的な研究を進めている研究者の熱き思いを、ジャーナリスト葦田万氏が紹介いたします。
(文・写真/葦田万)
真壁 利明 教授
半導体の配線を無線化する融合的な研究を推進する
「大学は役に立たなくてはならない」という物言いが昨今流行している。国立大学の独立行政法人化の趣旨も、要約すればこの一行になるだろうし、産学連携が目指すところも、この一行に凝縮できるといってもいい。
大学をめぐる認識は世を挙げてこうした方向に進んでおり、かつての学生運動が盛んだった時代の大学認識とは隔世の感があるものの、果たして、ダイレクトに社会や産業の役に立たない学問や研究を切り捨ててしまっていいのかという疑問は残る。慶應義塾大学理工学部電子工学科の真壁利明教授は、この問題は二段構えで考えるべきではないかという。
「われわれぐらいの歳になると、『大学は役に立たなくてはならない』という言葉が本当の意味でわかってきます。役に立つ大学像を考える際には、役に立つ研究や新技術は、むしろ、一見役に立たない学問の蓄積から生まれてくることを忘れてはならないのです。少なくとも30歳になるぐらいまでは、そうした地味な学問をみっちりやるべきだと私は考えています」
真壁教授のこれまでの研究生活は、まさにこの考え方を裏打ちするものだ。30代までボルツマン方程式の研究に没頭していたが、それは同僚や先輩たちから“貴族の学問”と揶揄されるほど、一見すると何の役にも立ちそうにないものだった。ところが、真壁教授が30代の後半にさしかかった頃、産業界から「真壁の学問は役に立つのではないか……」と声が掛かったというのである。
「ちょうど日本の半導体産業が世界のトップに躍り出ようという時期が、私の30代後半から50代にかけての時期と重なりまして、それまでの“貴族の学問”をベースにした研究が産業界で役立つことになりました。ですから、いますぐには役立たなくても、対象を深く掘り下げる学問をやることはとても大切です。大学はそれができる環境を継続してしっかり発展させなくてはなりません」。日本の半導体産業におおいに役立った真壁教授の研究とは、「低温プラズマを使った半導体プラズマプロセス」の研究である。
「半導体のパターンが出来上がった後、プラズマを使ってシリコンウエハーに穴や溝を切ったり、これを新材料で堆積させたりします。こうした加工をプラズマプロセスと呼びます。つまり、半導体を加工するツールとしてのプラズマの研究ですね。これが現在でも私の研究の中心課題です」
真壁教授は、自身の研究をきわめて地味なものと評するが、それは新しい半導体の回路設計をするというものではなく、あくまでも半導体を加工する、ツールの物理的な原理を解明しようとする研究、という位置づけからだ。いうまでもなく、真壁教授は、決して自身の研究を卑下しているわけではなく、むしろ、技術が閉塞状況にあるときこそ、そうした地味な研究が力を発揮する、とも指摘する。
「半導体はすでに、10ナノメーターのオーダーで加工する時代に突入していますが、こうしたレベルになってくると、加工ノウハウだけで対応するのは大変に難しい。物理の原理にのっとってプラズマプロセスのデザインをやらないと、このレベルの半導体をつくることはできません」
そうした意味では、日本の半導体はまだまだアジア諸国には真似できないレベルを保持していると真壁教授は認識しているのだが、一方で、半導体の生産拠点が次々と東南アジアに移転されていることは、日本の産業界にとって憂慮すべきことだという。なぜなら、研究者には穴を穿つような“貴族の学問”と同時に、生き生きとした最先端の分野からの刺激が不可欠であり、その“最先端”とは常にいわゆる生産現場にあるからだ。それが日本国内から消えるのは、やはり由々しき問題であることは間違いないだろう。
こうした危機感の持ち方には、まぎれもなく真壁教授の柔軟性と複眼的な思考が顔をのぞかせているが、そうした真壁教授の資質は、21世紀COEプログラムの拠点リーダーとしても遺憾なく発揮されている。
慶應義塾大学は、理工学研究科として5件のCOEを取ったが、真壁教授はそのうちの一件、「アクセス網高度化光・電子デバイス技術」の拠点リーダーを務めており、18人の事業推進担当教授と30人の博士課程COE研究員を擁して、「デバイス技術」と「通信ネットワーク技術」の連携融合技術の拠点として複数のプロジェクトを推進している。 真壁教授自身が参加するプロジェクトは、「ULSIのUWBによる無線配線」だ。 「現在のLSIは微細になり過ぎて物理的な加工の限界を向かえていると同時に、配線がやたらと長くなっているので、シグナルが配線を通る間にこれに遅れが出てしまいます。これが大きな問題になっているのです」
そこで真壁教授らは、金属の配線の使用を一部分に抑えて、半導体チップの中でシグナルを無線で飛ばすLSI無線配線に関する研究をしているのである。そうすれば金属の配線を通ることによるシグナルの遅延はなくなるというわけだ。
超微細な半導体チップの中を無線でシグナルが飛び交うなど、一般人には想像もつかない世界だが、真壁教授によれば、このプロジェクトは、プラズマプロセス、高周波デバイス、LSI回路などの技術と、無線通信方式の技術が連携融合することによって初めて取り組めるものだという。そして、こうした融合的な研究体制が組めることこそ、慶應の最大の特徴であり美点であるという。
慶應大学のもつ、いわばDNAともいえる実学の伝統がそれを可能にしていることは確かなのだろうが、おそらくは拠点リーダーとして、教授陣と学生たちのフリートーキングの場(ランチョンクラブ)などを積極的に設け、創発を促している真壁教授の力によるところも大きいはずだ。真壁教授が、日本の研究者には希有なプロデュースセンスの持ち主であることが分かる。 研究とその運営に多忙ななか、学術の発展にも関心が深く、現在、IOP(英国物理学会)の J. Phys. D(Appl. Phys.)と Plasma Sources, Science and Technology誌の編集ボードなどとして国際的に活躍中である。
真壁研究室の研究テーマ
- 低温プラズマと計算機支援プロセスデザイン(VicAddress)
- CCP(容量結合型プラズマ)と表面プロセス実験
- ICP(誘導結合型プラズマ)と表面プロセス実験
- マイクロセルプラズマの機能のモデリング
- 負イオンのプロセス機能と可デザイン性
- プラズマナノ加工とダメージ予測、回避デザイン
- ボルツマン輸送理論
研究室ホームページ http://www.mkbe.elec.keio.ac.jp/
問い合わせ先
- 公益財団法人川崎市産業振興財団 産学連携推進課
TEL : 044-548-4113 FAX : 044-548-4110
E-mail : liaison@kawasaki-net.ne.jp
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