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不二越冶金工業 株式会社


進化し続ける老舗 環境と調和した熱処理、表面改善技術


社長 山本 誠次 氏
●事業内容
精密金型および精密部品への熱処理と表面処理

■企業名 不二越冶金工業 株式会社
■創 業 1952年(昭和27年)8月
■所在地 〒211−0021 川崎市中原区木月住吉町1885
■電 話 044−411−3188 FAX 044−422−4732
■代 表 山本 誠次 氏(ヤマモト セイジ)
■資本金 1,000万円
■従業員 20名
■U R L  
http://www.fujikoshi-yakin.co.jp/

 不二越冶金工業は川崎市で生まれ半世紀以上の歴史を持つ、老舗の熱処理企業だ。1970年代半ばに真空熱処理炉を業界に先駆けて導入し、その後、精密金型の熱処理方法のデータ化に取り組むなど顧客の要望を取り込みながら一歩先を行く経営で注目を集めてきた。最近では表面改質にアンモニアフリーを実現したプラズマ窒化プロセスによる「バイポーラパルスプラズマ(BPN処理)システム」も日本で初めて導入し、環境配慮に敏感な大手企業からの受注が相次いでいる。タイミングを計った適切な積極投資と無借金経営の継続で業界の荒波を乗り切ってきた山本誠次社長の経営手腕に学ぶべきことは多い。
● 営業マンがなくても受注は月間550件

「当社には営業マンがいない。営業車も置いていない。すべてお客さんが品物を届けてくれている」と山本社長はこともなげに自社の営業スタイルを説明する。簡単に言うと処理を依頼する金型などの製品を顧客が当社に持ち込み、その製品に熱処理および改質処理を加えたものを約束の日時までに顧客に引き渡すシステムだ。処理済みの製品は顧客が直接引き取りに来るか、宅配便などで返送する。一般的な感覚からは耳を疑うような話だが「自分たちで配達していたらそれだけで一日が終わってしまう。宅配便がこれだけ発達しており、それを活用しない手はない」といたって合理的だ。とはいえ、このシステムが可能なのは同社の技術力がそれだけ頼りにされている証拠である。全国に2700社の顧客を持ち、月間550社との取引がある。「約束の期日と要求された品質を守ること。これだけは絶対であり、最低限のルール」との意識が顧客との信頼関係を築いている。
 しかし、同社が業界内で存在感を発揮するまでには紆余曲折があった。1958年に創業者である実父から会社を実質的に任された時、同社には機械加工と熱処理の2つの事業があった。山本社長は機械加工をやめて熱処理に専念することを決断する。精密機械工学出身であったが、要求ばかりが厳しい賃加工よりは、やり直しと工夫が出来る熱処理に魅力を感じたという。当時は自動車メーカーの足回り部品の焼き入れなどを中心に、数社から大量の受注を抱えていた。だが、これが裏目に出る。メーカーは内製に切り替え、受注は激減。この経験から山本社長は数社依存と量産には手を出さないと決心した。また、スタート当初に立ちはだかったのが周辺の宅地化だった。周囲の環境を配慮して、無公害化を図るべく1971年にガス軟窒化装置を米国から導入し、1975年にはドイツで開発されたイオン窒化技術を取り入れ、工場の体質改善にも着手した。「71年から5年計画で環境対策を実行しようと考えた」と山本社長は当時を振り返る。結局、オイルショックなどの影響を受けて2年延長となったが、これをやりきったことが後々大手企業からの評価に結びつく。

● 業界にインパクトを与えた真空熱処理炉の導入とデータブック
 その後、1976年に導入した真空熱処理炉が同社の印象を業界に根付かせた。金型にとって酸化と変形が起こらないことは、後加工の削減、削除に結び付くので、金型業界にかなりのインパクトを与えた。この真空熱処理は、視察した米国では一般化していたが、日本では普及しておらず、遅れを痛感し導入を決断した。導入の噂は金型業界に瞬く間に広がり、半年も待たず2号機の導入も決めることになる。山本社長の凄さはここからだ。金型の熱処理の研究に取り組み、金型の形状と材質ごとに熱処理によるデータを収集し、これをデータブックとしてまとめ顧客に配布したのだ。精密金型の熱処理も可能になるため顧客には受けた。これで同社の名前が全国の金型メーカーに知れ渡ることになった。その後も各種の研究成果を論文として専門誌に発表する姿勢は変えておらず、最近もプラスチック型成形向けに「精密金型への真空熱処理と表面改質処理」と題するテクニカルレポートを無償で配布し、摩擦摩耗試験データなどを広く公表している。
 
ただ、同業他社での真空熱処理炉の導入が進み、普遍化して価格競争が激化したのと、金型の製作拠点が近隣諸国に移行しはじめたことで、金型を対象としている熱処理部門にかげりが出てきた。そこで力を入れ始めたのが表面改質で、窒化とコーティングの2分野だ。「価格が高騰している素材のグレードを下げて、表面改質で強度を維持することができないかと言った要求が出てくるのでは」と山本社長は顧客の変化を敏感に読み取る。2005年に欧州から取り入れた窒化処理技術を独自に改良して施行しているBPN処理技術での品質評価は極めて高く、リピート率100%である。この処理プロセスはアンモニアガスを使わず、陰陽極のパルスを利用し、イオン化した窒素と水素で鋼の表面を硬化させる環境物質フリーの処理で、「第二の真空熱処理」とも言えるインパクトを業界に与え始めている。1号機導入以来半年後に2号機を発注、07年には3号機を設置した。大手電機メーカーなど環境対応の進む企業を中心に需要が増加しており、08年はBPN処理を主力に表面改質部門の業績は大幅に伸びそうだ。
● 無借金経営と積極投資

 こうした、時期を見た積極的な投資も真空熱処理の3号機以降は自己資金によって賄ってきた。「父が創業時に残した借金の返済に70年代後半までかかった。毎月、従業員に支払う給料を心配していては経営どころでない。この経験から借り入れはしないことを肝に銘じた」と山本社長は振り返る。これまでも投資額が売上高の50%近くなるケースもあったが「自己資本である限り、資本投下を怖がってはいけない」と一度決断したらブレはない。ただし“仕事をやるから機械を入れろ”というようなヒモ付きの投資は一切しない。顧客に振り回されてしまい経営が維持できなくなるからだ。
 同社には退職制度がなく、先代時代から働く68〜69歳の従業員もいる。「この仕事は熟練を要する部分が多く、できるだけ長く会社にいてもらいたい。とはいっても、若い人も必要で、知り合いを通じて定期的にいい人を紹介してもらっている」と言う。若い人で熱処理分野に興味を持つ人はそれほど多くない。しかし、熱処理の仕事はワンパターンでなく、炉の加減やさまざまな工夫が施せる。その面白さに気付いた人たちは自然に従業員として定着している。熱処理、表面改質は創造力を生かせる仕事である。その面白さを一番知っているのが山本社長であり、次世代へ残して行こうとの思いが、さらに独自の経営を生み出していると言えそうだ。

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