実験現場が待っていた!安全で効率的な電子実験ノート
第144回 かわさき起業家賞
会社紹介
当社は、安全で効率的に使える電子実験ノート『Jikken Note(ジッケンノート)』を提供しています。実験ノートは、研究の過程や成果を記録するためのもので、研究活動を支える重要なツールです。実験現場では、昔から“紙のノートに手書き”というスタイルが受け継がれてきました。昨今は、電子化の流れが進む中、当社はいち早く紙とデジタル、それぞれの良さに着目し、両者を組み合わせたハイブリッド型の『Jikken Note』を開発しました。
私自身はもともとは研究者で、学生時代から宇宙探査機のアンテナ開発に携わり、探査機のミッション完了後は、科学そのものを科学的に探究する「サイエンス・オブ・サイエンス」の領域へ進出しました。そこで膨大な論文を読みながらビッグデータを解析した経験を活かし、論文要約AIサービス『Paper Digest』を開発し提供しました。この『Paper Digest』は世界で150万人に利用されるまでに成長しました。 そして今、新たな挑戦として、熱意ある優秀なメンバーと共に『Jikken Note』の開発を始めました。私は、これまでに培った技術と経験を土台に、実験現場で本当に必要とされるツールを届けたいと思っています。研究者が短時間で簡単に、多くの手書きのデータをデジタルで記録・保存できること、また過去の実験データを解析できるようにして、最大限に力を発揮できる環境をつくり上げていきたいと思っています。それには、現場の声をたくさん聞かせていただき、常にアップデートを図っていきたいと考えています。
基本情報

株式会社JIYU Laboratories
〒105-0004
東京都港区新橋2-16-1 KEY STATION OFFICE 新橋 9F
受賞したビジネスに至った経緯
私が論文要約AI『Paper Digest』を提供していた時期は、ちょうどコロナ禍の真っただ中でした。人との交流が減っていく中、AIサービスのユーザーからは、「他の研究者が何をしているのか知りたい」という声が多く寄せられるようになりました。それを受けて、研究の進捗を共有できるサービスを試験的に提供したところ、大きな反響がありました。しかし、コロナ禍が落ち着いて日常が戻ってくると、ニーズも減少していきます。そんな時、お世話になっている弁理士の先生から「今の特許技術を応用して、電子実験ノートをつくったらどうか」というご提案をいただいたのです。正直、最初は「今さら電子実験ノート?」と気持ちでした。というのも電子実験ノート自体は1980年代には存在し、2010年代にはすでに多くのサービスが登場していたからです。ところがよく調べてみると、2018年の段階での国内の電子実験ノートの普及率はわずか7%であり、まだ紙のノートと手書きに頼っている現場がほとんどであることが分かりました。その背景には、研究室ならではの事情があります。たとえば、万が一液体の試薬が電子機器にかかるようなことがあれば損傷する恐れがあるので、PCの持ち込みを敬遠する現場も少なくないのです。とはいえ手書きの記録が積み重なれば、過去の記録を遡るのに膨大な時間がかかります。そこで、「紙とデジタルのハイブリッド」という発想にたどり着きました。手書きのノートを撮影してデジタル化し、内容を検索できるようにすれば電子ノートの利便性も取り入れることができます。このアイデアで特許を取得でき、研究者仲間に話したところ好評であったことから、事業化に踏み切る決断をしました。
サービスの特徴

『Jikken Note』には、大きく二つの強みがあります。
一つ目は、手書きの実験ノートの内容を検索できるようになること。紙の実験ノートは必要な情報を見つけるまでに手間がかかるので、過去の記録が活かされずに同じ実験や検討を繰り返してしまうことがよくあります。これは「車輪の再発明」と呼ばれ、研究現場ではできるだけ避けたい状況の一つです。『Jikken Note』の検索機能を使えば、こうした見落としを防ぐことができますので、研究にかかる時間や労力を大きく減らすことができます。また、手書きの数値を自動で電子的な表形式(CSV)に変換し、簡単にグラフ化することが可能です。更に、AIが実験の要点や特異点を示したり、次の打ち手を提案してくれます。
二つ目は、化学物質のリスクアセスメント(危険性の事前確認)が自動化されていることです。過去、化学工場等での爆発事故や健康被害が相次いだことから、2016年に労働安全衛生法が改正され、事業所におけるリスクアセスメントの実施が義務付けられました。ところが国が提供するツールは現場で十分に活用されておらず、リスクアセスメントの実施率は中小企業で約3割、大手でも6割程度にとどまっています。この課題を解決するために、『Jikken Note』は入力の手間が最小限で済むように設計しました。リスクの洗い出しや評価は自動化しているので、実験前の準備をスムーズに進めることが可能です。現場目線の使いやすさと安全性を両立し、従来の電子実験ノートとは一線を画す製品になっています
現状の課題
現在クラウド型サービスとして展開する『Jikken Note』ですが、製薬メーカーなど高いセキュリティ要件が求められる企業からはオンプレミス型での提供が求められており、現在その対応を進めています。また、こうした企業に安心してお取引いただくためには、私たちの組織自体にも万全なセキュリティ体制が求められます。そこで、国際規格「ISO 27001(ISMS)」の取得に向けた準備に着手しました。 また、カスタマーサクセスの充実も大きなテーマの一つです。現在、全国に販売網を持つパートナー企業であるアズワン株式会社様と連携しており、サポート体制は整いましたが、ここをさらに充実させるためAIを活用した問い合わせ対応システムの導入を計画しています。これにより従来は1〜2週間を要していた課題解決を、数十秒〜1分以内で完了できるようになります。人とAIの力によって、より迅速で丁寧なサポート体制の確立を目指していきます。
今後の展開
サービス面では、先ほど触れた「車輪の再発明」を避けるため、ナレッジシェアリング機能の強化を進めています。実験内容を入力すると過去に実施した類似の実験がすぐに提示され、それを手がかりに異なる角度から発想できるようサポートすることが目標です。
また、ラボラトリー・オートメーション(実験自動化)の実現も視野に入れています。実験には、ひたすら単純作業を繰り返すだけのような工程も少なくありません。そういった部分を自動化することで研究者がもっと自由に、創造的に働ける環境をつくれたらと考えています。さらに、マテリアルインフォマティクスの領域にも大きな可能性を感じています。これは「実験を行わずともAIが最適な素材の組み合わせを予測する」といった技術分野です。『Jikken Note』に蓄積されたデータを活用することで、自然とこの領域につながっていくようなサービスを構想しています。組織面ではグローバル展開を目標に、まずASEAN市場から進めていく計画です。ASEANは人口が多く経済成長も著しい地域であることに加え、かつて日本に留学し日本式の研究を経験したのちに母国で活躍している研究者も多くいます。そのため日本の研究文化との親和性が高い点が大きな魅力です。こうした背景を踏まえ、まずASEANで実績を築き将来的には世界に向けた事業の展開を目指しています。
パートナー企業との連携で実現したいこと
私たちは『Jikken Note』を実際にご活用いただける企業を探しています。たとえば、生物・食品・化学などのメーカーや研究所の方々で『Jikken Note』に興味を持っていただける方がいらっしゃれば、ぜひお声がけください。また、あわせて共同開発に関心のあるパートナー企業も募集中です。たとえば実験の自動化に関して、装置や制御といった技術分野は当社の専門外であり他企業との連携が不可欠です。そうした企業と、お互いの強みを持ち寄って一緒に価値をつくっていけるような関係を築いていけたらうれしいです。



