先進的RFIDテクノロジーでプールの溺水事故を防ぐ
第143回 かわさき起業家賞
会社紹介
この事業を始めるきっかけになったのは、IT関連の仕事をしていた頃に、フィットネスジムの店長と交わした会話です。当時の私はジムのDX化を支援する提案を行っており、顔認証による入館管理システムやマシンの使用データを見える化する仕組みなどを提案していました。ところが先方から「課題はもっと別のところにある」という話を聞くことになり、それが「プールでの子どもの溺水事故の多さ」だったのです。言われてみると毎年のように悲しい水の事故が報道されおり「5人に1人の子どもが溺れる危険を経験している」という調査結果もあるといいます。この実態に直面したとき「これこそが、テクノロジーで解決すべき課題なのではないか」と強く感じました。人的な監視には、どうしても限界があります。人間の力だけでほんの一瞬たりとも目を離さずに見守ることは現実的ではありません。だからこそ技術の力で監視をサポートし、安全性を高めることが不可欠です。そう考えたことが「Meel(ミール)」開発の出発点となりました。弊社は「テクノロジーで世の中の役に立ちたい」という想いで立ち上げた企業です。子どもたちの命が守られる、安全で安心な社会づくりに貢献していきます。
基本情報

株式会社プライムセンス
〒150-0021
東京都渋谷区恵比寿西2-4-8
ウインド恵比寿ビル8F
受賞したビジネスに至った経緯
このアイデアに手応えを感じた理由のひとつは「人間の判断に頼らない安全技術」がすでに社会に浸透し始めていることでした。自動車業界では、衝突防止機能や自動ブレーキが標準装備になりつつあります。スポーツの分野でもVARのようなビデオ判定が浸透してきました。つまり「人の判断をテクノロジーが補完する」という考え方は、すでに私たちの社会に根付いているのです。また、学校で行う水泳の授業を民間に委託する動きが広がっていることも、挑戦の後押しになりました。委託が進む背景には、猛暑の影響で屋外プールでの授業が難しくなったり、老朽化した校内プールの再整備に十分な予算が確保できなかったりといった事情があります。その一方で、受け入れ先となる市民プールやフィットネスクラブでは、監視員の確保が追いつかず対応に苦慮しているというのが現状です。さらに学校の授業には、泳げない子や水が苦手な子も含まれるため、通常のスイミングスクール以上の安全体制が求められます。このような事情から、デジタルによるサポートというニーズは今後ますます高まっていくことが想定できました。
サービスの特徴
「Meel(ミール)」は、カメラを使わず、センサーで溺水を検知する日本初の安全監視システムです。子ども達の水泳帽に装着されたRFIDタグが水没状態を瞬時に検知し、子どもが10秒、20秒と浮かび上がらない場合、即座にアラートを発信。監視の見逃しを防ぎます。RFID技術は交通系ICカードなどで広く使われていますが、人体や水の近くでは電波が劣化しやすく、装着型での活用は難しいといわれていました。「Meel」は大学と共同研究を行いながらその課題を解決し、従来の監視システムにはない革新的な仕組みを実現しています。プールでの事故は発見の遅れが命に直結します。過去の事故例を見ると「監視の死角に入っていた」「監視員が別のことに対応していた」というケースが多くあります。これは、監視カメラや人的監視には限界があるという現実を示しています。また、市場にはAIカメラを活用したソリューションも登場していますが、光の反射や人物の姿勢、映り込みなどの影響を受けやすく十分な精度を出しにくいという欠点もあります。その点「Meel」は映像による判断ではないため、正確かつスピーディーに感知できる点に優位性があります。さらに、既存のプール環境に導入しやすい点も特長です。海外製のシステムでは初期費用が数千万円〜億単位にのぼるものもありますが、Meelは国内の現場ニーズに合わせて開発された純国産システムなので、安価に導入することが可能です。

現状の課題
現在は、「Meel」をより多くの方に届けるため、プールのあるフィットネスジムやスイミングスクールへのアプローチを進めています。また最近は、子ども向けの見守りサービスを展開する企業から連携のご相談をいただく機会も増えてきました。今後は水泳以外の場面でも活用の幅を広げ、より多くの人が安心できる環境づくりに貢献していくことを視野に入れています。一方で、組織面での課題もあります。現在は私を含めて2名体制のため、事業を拡大するには社内基盤の強化が欠かせません。今後展開先が増えてくれば、保守やメンテナンスのリソース確保も課題となっていくでしょう。そのため、現在は新たな人材を採用するのか、サポート体制を担ってくれる代理店に業務を委託するのか、といった検討を進めている段階です。特にプールの現場に精通している方や水泳の経験がある方に仲間として加わっていただけたら心強いと考えています。
今後の展開
次の展開として構想しているのが「スクールバスの見守り」です。置き去り防止や車内の安全確認といった分野で、「Meel」の溺水検知と同じ仕組みを応用できる可能性があります。プール施設が送迎バスを運行しているケースは多く、プール監視とセットで導入していただければ、より高い安全性の提供が期待できます。実用化が進めば、幼稚園や保育園の園バス、高齢者施設の送迎バス、その他クローズドな空間における安全監視など活用の場は大きく広がっていくと考えています。もちろん、この市場にはこれから競合の参入が予想されます。だからこそスピード感を持って普及を進め「業界の定番」としての地位を確立させていきたい考えです。具体的には、全国展開している大手フィットネスクラブやスイミングスクールへの導入を積極的に進め、まずは多くの現場で“使われること”からスタートします。価格設定については導入しやすさを重視し、初期費用はできるだけ抑え、月額制のサブスクリプション型にすることを想定しています。設置先が増えるほど収益も安定し、サービスを長く続けていける仕組みです。将来的にはIPOやM&Aなど、大きなステップも視野に入れています。2031年頃をひとつの節目としながら、持続的な成長を目指していきます。
パートナー企業との連携で実現したいこと
今回の受賞をきっかけに、川崎市内の小学校や大手スイミングスクールで、当社のシステムを試験運用させていただける機会を得ました。来年の夏には小学校の授業の一環として正式に導入いただく予定です。まずは1校からのスタートですが、状況次第では2校、3校と広がる可能性もあり、市の教育委員会からも前向きなお話をいただいています。川崎市には、ITやDX分野で豊富な実績を持つ企業が数多く集まっています。大規模なインフラやネットワークを保有する大手企業や、高度な技術力を持つ中小企業と連携できれば、私たちのソリューションをより確実に、そして広く届けることができるでしょう。加えて製造業が活発な地域でもあり、ハードウェアの開発や製造に関してご協力いただける企業と出会いたいと考えています。まだ仕様の一部に検討中の部分はありますが、技術面で具体的な相談が可能になりましたら、ぜひご相談させていただきたいと思っています。



