育児を楽しみ、前向きに将来を生きるためのプロジェクト
第144回 かわさきビジネス・アイデアシーズ賞
会社紹介
子育ては、かけがえのない喜びをもたらしてくれる一方で、心身ともに大変なエネルギーを必要とする営みでもあります。ストレスや不安を抱えながら育児に向き合っている方も多く、日本人女性の約11.5~15.1%、男性の約8.2~13.2%が、妊娠後期から出産直後までの周産期にうつ病を経験しているというデータもあります。周産期のうつ病は自死のリスクを高め、母子関係や子どもの発達に影響を及ぼすことも指摘されています。私たちはこの課題の解決をめざし、最新の心理療法ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)を取り入れた支援アプリを開発予定です。スマホのアプリを通して実践できる心のセルフケアを提案するとともに、パートナーとの協働や同じ悩みを持つ仲間同士がつながれるような仕組みも提供します。私自身、仕事の忙しさからメンタルを崩した経験に加え、大切な家族をうつ病で亡くすというつらい出来事も経験してきました。心の問題が人生や家族に与える影響の大きさは身をもって実感しています。この経験を無駄にしないという想いを胸に「心のケア」の必要性を発信し、日常に根づかせるための取り組みを続けていきます。
基本情報

キラル株式会社
〒〒104-0031
東京都中央区京橋3丁目3−13 3階
受賞したビジネスに至った経緯
日本は先進国の中でも特に心の不調を抱える人が多く、最近は若い世代の自殺が増えていることも報じられています。こうしたニュースに触れるたび、私は胸が締めつけられるような思いを抱いてきました。というのも私自身、仕事の忙しさに心が追いつかず、休職を余儀なくされた過去があるからです。さらに大切な家族をうつ病で亡くすという、つらい経験もしています。だからこそ「若い人が苦痛を感じるような社会であってはいけない」「何か私にできることはないだろうか」ということを、ずっと考え続けてきました。そこで、この問題に向き合うため大学院に進学し、本格的に心理学を学ぶことを決めました。そのときに出会ったのが、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)という心理療法です。ACTは、現状を受け止め、自分が本当に大切にしていることを明確にして、それに基づいて行動するための心理療法です。これを知ったときに、「これは、多くの人の支えになり得るすばらしい考え方だ」と強く感じました。当時、再生医療を手掛ける会社でシステム開発に携わっていた実績もあったため「ACTとテクノロジーを組み合わせて、新しい支援の形が生み出せるかもしれない」と考えるようになったのです。そして、このアイデアに賛同してくれた仲間とともに女性の健康課題の解決をめざすフェムテックの分野で起業することになりました。最初のチャレンジとして取り組んだのは、Z世代の女性を対象としたメンタルセルフケアアプリの開発です。そして現在、女性の子育て期にフォーカスした支援へと取り組みを広げようとしています。
サービスの特徴

最大の特徴は、近年注目を集めている心理療法ACTをベースに設計された支援プラットフォームを構想していることです。この分野における国内第一人者の専門家の協力のもと、エビデンスに基づいた丁寧な開発を行っています。また、育児に伴うストレスや不安の背景には、孤独感や社会的な孤立が隠れていることも少なくありません。そこでセルフケアだけでなく、パートナーや家族と一緒に利用できる仕組みや、つながりを育むコミュニティづくりに注力していることも当サービスならではの強みです。もう一つの大きな特徴は、知的財産を重視している点です。これまでに21件の特許出願を行い、そのうち7件で特許権を取得しています。自社のサービスそのものを守るという目的もありますが、それ以上に大切にしているのは、「健全で、信頼できる市場を育てたい」という想いです。デジタルメンタルヘルスは、今まさに発展途上にある分野です。私たちはこの新しい分野をリードする存在として、長く安心して使い続けられるサービスを確立していかなければなりません。知的財産の保護に力を注ぐことは、業界全体の健全な発展を支えるための私たちの使命でもあると考えています。
現状の課題
「メンタルのセルフケア」を特別なものではなく、当たり前の選択肢としてどう広げていけるか。それが今の私たちにとって最も大きなテーマです。アプリで心のケアを行うという発想やACTという心理療法は、まだ世の中に十分に受け入れられているとはいえません。だからこそ利用に至るまでのハードルは高く、一般向けアプリならではの難しさを日々感じています。マーケティングだけでなく「知ってもらう」「きちんと理解してもらう」ための教育や啓蒙の取り組みも欠かせないと考えています。さらに「予防」という考え方を世の中に浸透させていくことも重要な課題の一つです。メンタルは一度深刻な状態に陥ると、回復に多くの時間と労力を要します。そのため心が元気なうちからケアをしていくことが非常に重要です。しかし日本では「治療は調子が悪くなってから」という意識が根強く、予防にお金や時間をかける文化は広がっていません。ここでも教育や啓蒙の必要性を強く感じているところです。組織面での課題としては、やはり資金調達が挙げられます。サービスを継続的に成長させていくためには、人材への投資が必要不可欠です。今後は心理職など専門性の高いメンバーも迎え入れていきたいのですが、発展途上のフェーズにある当社にとって、志を共にしてくれる方を見つけるのは容易なことではありません。それでも、この分野の未来に可能性を感じてくれる人材を見つけ、少しずつ仲間を増やしていけたらと思っています。
今後の展開
めざしているのは、ライフステージを通じて長く使い続けてもらえるライフステージヘルスケアⓇプラットフォームの実現です。これまで取り組んできたZ世代を出発点に、子育て世代、将来的には中高年世代へと対象を広げ、切れ目のないサポートを届けていきたいと考えています。さらに将来的な可能性として、海外展開や医療機器分野への応用、男性向けサービスの展開も視野に入れています。近年は男性の更年期の悩みなども注目されており、まだ十分に支援が行き届いていない領域も多く存在すると見ています。また、事業の成長については長期的な視点を大切にしています。資金調達を進めながらIPOも視野に入れており、2030年をひとつの目標としています。ただし、上場やM&Aといったイグジットありきで進めるのではなく、まずはこのプラットフォームをしっかり形にしていくことが最優先です。その先で最適な選択肢を検討していきたいと思います。
パートナー企業との連携で実現したいこと
まず求めているのは、POC(概念実証)のフィールドをご提供いただける企業との連携です。現場での検証を通じて改良を進め、サービスをよりよいものにしていきたいと思っています。また、当社のコンテンツは教育機関や企業向けプログラムとしても活用できますし、既存のアプリやシステムへの組み込みにも柔軟に対応できます。そのため「こんな取り組みはできないか」「この分野で一緒に進められないか」といったご相談も大歓迎です。想いに共感し、共にチャレンジしてくださるパートナー様との出会いを楽しみにしています。


