スポーツチームの試合相手探し・調整を最適化するウェブアプリサービス
第145回 かわさき起業家賞
会社紹介
子どものスポーツクラブの現場は、多くのことが人脈や善意によって支えられています。ボランティアのコーチが、本業の合間にちょうどよいレベルの試合相手を探し、大会要項や対戦表を手作りする――こうした光景は決して珍しいものではありません。他のチームや他競技のクラブに通う保護者の方々から話を聞く機会もあり、地域や種目を問わず共通する課題なのだと感じました。私は大手人材関連会社での経験や、副業のコンサルティング業務を通じて、社会のさまざまな課題をビジネスの力で解決する仕事に携わってきました。またライフワークとして子どもの教育に関わる活動も続けています。こうした経験を活かし「スポーツチームが抱える課題を事業として解決できないか」と考えるようになったのです。そのことから、試合会場の確保や対戦相手探し、日程調整、保護者への連絡といった運営業務を一元化できるサービスを構想しました。単なる便利ツールではなく、子どもたちの挑戦と成長を支える新しい社会インフラとして社会に根づかせたい。その実現に向け、この取り組みを事業として発展させていきたいと思っています。
基本情報

出口 博也
神奈川県川崎市中原区
受賞したビジネスに至った経緯
私がこの課題を強く意識するようになったのは、息子が川崎市の少年サッカーチームに所属したことがきっかけです。クラブの運営が人脈やボランティアの善意によって支えられていること、そしてその負担が一部のコーチや保護者に集中していることを知りました。そして「これは、決して小さな問題ではない」と感じたのです。運営サイドや現場のようすを見ていると、大きく三つの課題があると感じました。一つ目は「練習や試合場所の確保が難しい」こと。二つ目は「適切な試合相手がなかなか見つからない」こと。そして三つ目は「日程調整に手間と時間がかかる」ことです。そこで私は「もし試合の相手探しから日程調整までをスムーズに行える仕組みや、マッチングのような形で対戦相手を見つけられるサービスがあったら使いますか?」とコーチ陣に率直に尋ねてみました。すると多くの方から「それはぜひ使いたい」という前向きな返答をいただきました。こうした反応が、挑戦へ一歩を踏み出す後押しになりました。さらに近年は、AIやローコーディングといった技術の進化により、専門的なエンジニアがいなくても一定水準の試作品をつくれる環境が整ってきています。「まずは、自分で形にしてみることができそうだ」と思えたことも、挑戦を決意した理由の一つです。
サービスの特徴
本サービスは「場所の確保」「最適な対戦相手の確保」「日程調整」「保護者への連絡」といった、クラブ運営に欠かせない四つの機能を一気通貫で提供するウェブアプリです。さらに、試合要項や対戦表を自動で生成する機能も搭載し、事務作業の負担を大きく軽減します。また、チームのレベルを可視化するレーティング機能も備えています。これにより実力に見合った対戦相手を見つけやすくなります。クラブを率いるコーチの多くは、複数のSNSグループを使い分けながら日程調整を行っています。その上、大会要項や対戦表はPowerPointで作成するなど、用途ごとに異なるツールを使い分けているのが実情です。運営業務が煩雑化し、コーチや保護者にかかる負担は大きくなっています。本サービスの特徴は、こうした一連のプロセスを一つのアプリ上で完結できる点にあります。保護者への連絡機能に特化した競合のサービスはいくつかありますが、チームの実力やレベル感を可視化し、試合要項や対戦表の作成まで一体で行えるものは他にありません。クラブ運営全体をまとめて支えられる設計になっている点に、価値を感じていただけると考えています。
現状の課題
さまざまな課題がありますが、とりわけ強く感じているのは「練習場所がない」という根本的な問題です。どれだけサービスや仕組みを整えても、試合や練習を行う場所そのものが不足していては、子どもたちが力を伸ばす機会を十分に確保することはできません。そのため、専用グラウンドやフットサルコートに限らず、新たな選択肢となる場所を広げていく必要があると感じています。現在は野球場の外野グラウンドを活用するなど、既存施設の新たな使い方を模索する実証実験を進めているところです。また、現場のコーチや保護者からは前向きな反応をいただいている一方で、最終的な意思決定を担う立場の方々には、このサービスの必要性が十分に伝わりにくいという課題も見えてきました。現状は人脈や善意によって何とか運営が成り立ってしまっているため、リスクとして認識されにくいのです。しかし、このまま善意に頼ったクラブ運営を続けていては、担い手がいなくなった瞬間に立ち行かなくなる可能性があります。だからこそ、このやり方を将来的なリスクとして丁寧に説明していく必要があると考えています。あわせて、影響力のあるクラブチームやサッカー選手、協会、行政といった立場の方々からの後押しも重要だと考えています。当事者の目線で現状の課題を語る声が増えることが、社会全体からの理解を広げる鍵になっていくはずです。
今後の展開
私たちは、事業の展開を三つのフェーズに分けて考えています。まずフェーズ1では、現在の取り組みを着実に広げていくことに注力します。小学生から中学生、高校生、大学生、そして社会人へと対象を広げるとともに、サッカーにとどまらず、野球やバレーボール、バスケットボールなど他の競技にも展開していきます。フェーズ2では、2026年度から本格化する「部活動の地域移行」への対応を見据えています。現場ではすでに多くの課題が指摘されており、運営の仕組みづくりは急務です。フェーズ1で確立した仕組みは、こうした地域移行の動きの中でも活かせると考えています。そしてフェーズ3では、スポーツ体験そのものの価値を高める未来を視野に入れています。プロによる練習指導の提供、試合会場でのキッチンカー誘致や企業ブース設置などエンターテインメント要素の追加、駐車場サービスとの連携など、人が集まる場をより魅力的な空間へと進化させていく構想です。全国に約25万のクラブがあり、そのうちサッカーや野球など主要競技だけでも約15万のクラブチームが存在すると見込んでいます。その中の10%、1万5,000チームを3年間で獲得することを、現時点での具体的な目標としています。
パートナー企業との連携で実現したいこと
先述のとおり、私たちは「場所の確保」という根本的な課題の解決を目指しています。その実現に向けて、行政との連携を今後さらに広げていきたいと考えています。現在は川崎区の球場で、指定管理者と調整を行いながら野球場の外野芝生を活用した実証実験を進めています。「サッカーは専用グラウンドで行うもの」という前提を少し見直すことで、活用できる場所の可能性は広がります。場所の有効活用は、自治体にとっても意義のある取り組みになるはずです。地域資源を活かしながら、子どもたちの活動機会をともに広げていければと願っています。
